ライトノベルで学ぶ 行政書士試験過去問

行政書士試験の最重要過去問を日本一わかりやすく解説

株式を後継者以外の者に相続させるなら議決権制限株式を発行しよう / 行政書士だけでは食えない今の時代を生き抜くためのヒントは孫子の兵法にあり


中小規模の株式会社の事業承継で大切なことは、後継者に株式の大半が承継されるようにすること。

もちろん、株式だけでなく、会社の事業のために必要な資産や不動産、車や機械なども後継者が引き継げるようにしなければなりません。

でも、そうしてしまうと、後継者以外の相続人に十分な遺産が渡らず、遺留分減殺請求権を行使される可能性があるというケースも少なくないと思います。

あなたが亡くなり、相続人として、妻、長男、長女、次男が残されたとしましょう。

長男が会社の後継者になり、あなたの遺産の大半を相続。その一方で、妻、長女、次男には、ほとんど、遺産が渡らなかったとします。

四人の親子兄弟の関係がよくて、「お父さんの会社をつぶすようなことはしてはいけない。お兄さんが後継者になるのが当然だ」という意識を持っている方たちであれば、長男が遺産の大半を相続したとしても、紛糾することはないかもしれません。

しかし、親子兄弟の仲が悪いようだと「お父さんの会社なんてどうでもいい」とばかりに、自分の取り分を執拗に要求するという事態になりかねません。

会社の株式をすべて、後継者である長男に相続させると、妻、長女、次男遺留分を侵害してしまう場合は、株式の一部を彼らに承継させるのも一つの手です。

しかし、株式を他の相続人に分散させてしまうと、株主総会における議決権が分散されてしまい、後継者が思いのままに、会社を経営できなくなってしまうという懸念もあります。

長男が株主総会で何かを決めようとしても、他の兄弟が反対して、思うままに、会社を動かせなくなってしまうわけです。

そこで、他の相続人たちに相続させる株式について、議決権を制限するという条件をつける方法もあります。

『議決権制限株式』というものです。

株式としての価値は、通常の株式同様にあり、利益の配当を受けることもできるわけですが、株主総会における議決権だけは行使できないというものです。

そんなことが可能なのかと疑問に思う方もいるかもしれませんが、会社法には次の規定があります。



(株主の権利)
第百五条  株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。
一  剰余金の配当を受ける権利
二  残余財産の分配を受ける権利
三  株主総会における議決権
2  株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。



2項に、第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。とあります。一方で、第三号の株主総会における議決権には、言及していません。つまり、議決権を全く与えないことも可能だということです。

後継者には、普通の株式を相続させ、他の相続人には、議決権制限株式を相続させる。

そうすることで、後継者は、他の相続人の意向に左右されることなく、自由に会社の経営を行うことができるようになるわけです。

そのためには、予め、議決権制限株式を発行しておかなければなりません。

後継者が引き継いだ後で、議決権制限株式を発行して、他の相続人に配るのでは遅いのです。

あなたが、議決権制限株式を発行しておき、遺言書に、

『長男には、普通株式を何株相続させる。妻、長女、次男には、議決権制限株式を何株相続させる。』

と書き残しておかなければなりません。

しかし、議決権制限株式と分かると、妻、長女、次男が、「不公平だ!普通株式をくれ!」と要求してくることも考えられます。

もちろん、遺言書があり、遺言執行人がいて、厳正に相続手続きが行われれば、文句を言いたくても言えないということになりますが、親子兄弟の仲は、却って、こじれてしまうこともありうるでしょう。

やはり、普通株式を相続させて、納得してもらうしかないということもあると思います。

そんな時は、後で、後継者が他の相続人の株式を取り上げることができるようにしておくのも一つの手です。

つまり、他の相続人がうるさく口出しして、後継者の経営が妨げられるような事態となったら、彼らの持つ株式を取り上げて、一切、会社に関わらないようにさせるということです。

つまり、定款に『売渡請求条項』を設けておくという方法です。会社法には次のような規定が設けられています。



(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
第百七十四条  株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。



この条項を設けておけば、後継者が、相続人たちから、株式を回収することができるわけですが、もちろん、タダで取り上げることができるという意味ではありません。

『会社が相続人の有する株式を買い上げる』制度ですから、株式相当額の資金を用意しなければなりません。

会社の資金に余裕がある場合のみ使える条項ということになります。

会社を特定の後継者に引き継がせる際に、他の相続人に口出しさせたくない。だけど、他の相続人のための遺留分まで確保できない。
その場合は、議決権制限株式を発行しておく方法が確実です。

その上で、遺言書を作成するわけですが、遺言書は、相続人によっては記されてしまう危険性の高い自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を利用するべきです。

さらに、相続人以外の第三者。例えば、行政書士司法書士などの専門家を遺言執行者に指定しておく。

そうすることで、他の相続人に文句を言う機会を与えないのが、確実と言えます。


※参考 会社法
(異なる種類の株式)
第百八条  株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
一  剰余金の配当
二  残余財産の分配
三  株主総会において議決権を行使することができる事項
四  譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
五  当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
六  当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
七  当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。
八  株主総会取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
九  当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第九号及び第百十二条第一項において同じ。)又は監査役を選任すること。
2  株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
一  剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
二  残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
三  株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
四  譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
五  当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
六  当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
七  当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
八  株主総会取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
九  当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項
3  前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。


(株主の平等)
第百九条  株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2  前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3  前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。


(議決権制限株式の発行数)
第百十五条  種類株式発行会社が公開会社である場合において、株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式(以下この条において「議決権制限株式」という。)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするための必要な措置をとらなければならない。


(種類株主総会の権限)
第三百二十一条  種類株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会
第三百二十二条  種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
一  次に掲げる事項についての定款の変更(第百十一条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
イ 株式の種類の追加
ロ 株式の内容の変更
ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
一の二  第百七十九条の三第一項の承認
二  株式の併合又は株式の分割
三  第百八十五条に規定する株式無償割当て
四  当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
五  当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第二百四十一条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
六  第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当
七  合併
八  吸収分割
九  吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
十  新設分割
十一  株式交換
十二  株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
十三  株式移転
2  種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。
3  第一項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第一項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。
4  ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第二項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。


第五款 相続人等に対する売渡しの請求

(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
第百七十四条  株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
(売渡しの請求の決定)
第百七十五条  株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第一項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一  次条第一項の規定による請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
二  前号の株式を有する者の氏名又は名称
2  前項第二号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、同号の者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
(売渡しの請求)
第百七十六条  株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を定めたときは、同項第二号の者に対し、同項第一号の株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から一年を経過したときは、この限りでない。
2  前項の規定による請求は、その請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
3  株式会社は、いつでも、第一項の規定による請求を撤回することができる。
(売買価格の決定)
第百七十七条  前条第一項の規定による請求があった場合には、第百七十五条第一項第一号の株式の売買価格は、株式会社と同項第二号の者との協議によって定める。
2  株式会社又は第百七十五条第一項第二号の者は、前条第一項の規定による請求があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。
3  裁判所は、前項の決定をするには、前条第一項の規定による請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
4  第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百七十五条第一項第一号の株式の売買価格とする。
5  第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、前条第一項の規定による請求は、その効力を失う。



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